21.6.23 青葉弥生物語〜少年少女〜エピソード1
シーン 0 




ピーーーーと甲高い笛の音がなった。

敵の最後のボールは見事に弧を描いて武蔵のゴールに納まり・・・、


俺たちは空を見上げた。

「あぁぁああああぁーーちっくしょーーーー」

「おらぁーーー!」

「あぁあーくっそっ!!」

武蔵のメンバーから声があがる。

そう、俺たち武蔵中学3年の先輩たちの大会は、これをもって終了したのだった。

三杉さんが、出てないから武蔵は駄目なんだなんて、思われたくないし、思いたくない・・・と

先輩方も思っているだろう。

この試合にでた俺たち3バカトリオも同じだった。



後半に三杉さんがでてくれればーーーー・・・

けど、やっぱり三杉さんの病気は安定せず、結局所属はしているものの、試合にでることはほぼなかったのだった。

がっくりと肩を落としながら三杉さんのところへ行く。

「三杉さん、俺たち・・ほんとに・・」

三杉さんは、かすかに笑ってうなずくと、

「残念だったね。でもいい試合だったよ」

と言ってくれた。

今日も三杉さんはでられなかった。

きっと・・俺たちよりも歯がゆい思いをしたんだろうな・・。




シーン1 武蔵中学サッカー部  ー部室ー



「いやいやーー今日から3年の先輩がもうでてこなくなるからこの部室もいやすくなったよなぁ」

「ってよくゆーよ真田!お前遠慮のえの字もしらねーじゃねーか」と本間。

「でもやっぱりどかーんと居座ってられるってなぁーいいよなぁー先輩らしくてよ!」と一之瀬。

武蔵野3バカトリオーといわれている俺たちは椅子に腰掛け少し広くなった部室で話をしていた。

「しかしさーー先日のあの試合!3年の先輩には申し訳ないけどさ、・・・」

「なんだよ真田?言えよ」と本間

「ちょ・・いっちゃっていい?俺いっちゃっていいの?いいの?ほんっといいの?じゃぁいっちゃうよ!!」

「真田ーーー男だろっ!!言え!!言ーえっ!いーえっ!言ーーえっ!」

熱い本間と一ノ瀬のコールに答えて思い切って・・・


「・・・戦術が甘かったよなぁ」

と一ノ瀬・・・。

「オイコラ!一之瀬!俺のせりふを!!」

「よし!イニシャルトークで!」

「おう!」

「だって、I崎先輩にはさ、ふつーあそこで俺がでてたら、あーいかね?」

「・・ってか!お前音読みしたら、イニシャルトークになってねーじゃねーかよ!」

「相崎先輩・・ってか、A(エー)崎だろうがよ!」

「あああああもうっそんなことはどうでもいい!!」

俺たちの話はもういつも大概めちゃくちゃだ。

「もうイニシャルトークめんどくせぇ!いーじゃんわかってるんだからさ!本人いねぇし」

「そ、そうだよな、だーーだいたいさーー球筋よめっつんだよなー!前半のパス!あれはねぇだろう?」

「おれだったらレフトから攻めるな!」

「そうそうそうそう!そう思うよな!!それを俺がフォローするとして・・」

「俺がそこに突っ込んでいく」

「そしてゴール前でパス・・・」

3人の頭の中ではゴールに決まったボールが浮かぶ。

そして・・

3人はがっくしとうなだれる。

「ハァー・・こんな時さーショウヤがいてくれたら違ったよな・・」

「あ!!そうだよ!ショウヤ!あいつが入ってくれていたら!」

「絶対あんな試合にはならなかったよな!」

遠慮がちにぼそぼそ声になって話していたところに

そこに入ってきた変声期前の声。1年ボーズ。

「え?え?誰なんですか?ショウヤって?」

馬鹿野郎!小声で話してたのがわかんねーのかよ!

「ばばばばバカっ!でかい声だすなって!」

真田が一年ボーズの口を押さえた。

「ちょ・・先輩なにするんスかぁ?小声って普通にでかい声でしたって!で、誰?誰なんです?ショウヤって?初耳ですよ!先輩方がアテにするチームメイトの名前では!!」

「俺はそんな話してないぞ」と一ノ瀬。

「誰それ?何の話?」とすっとぼける本間。

「知らんしらんぞ!」と真田。

不自然な動きで否定する俺たちにぴかぴかの一年ボーズは・・


「うわっめっちゃ知ってるじゃないっスか!えぇてか気になる!真田さんたちが知ってるってことは

マネージャーは知ってますよね?教えてくれないなら青葉先輩にさりげなーく聞こうっと・・うわっ」

真田があわてて後ろから羽交い絞めにする。



一年ボーズは、聞きたがりだ。

3人は顔を合わせ、周りを見渡し、うなずくと、

「・・・けど、正式なメンバーじゃなかったからさ、非公開レアネタなんだ!誰にもいうなよ・・」

一年ボーズは目を輝かせてウンウンと頷いた。



それから始まる、ショウヤというヤツの話ーーーー。懐かしい記憶が蘇る。

記憶は小学4年のときに俺たちを戻す。




シーン2  ー少年ー



・・・ショウヤはさ、小4の時に出会ったやつなんだけど、

なんか俺たちの知らないところでずーっと俺たちの練習をみてたんだよ。

三杉さんは心臓のことがあるから、見学が多かっただろ?それでヤツの視線をいち早く察知したんだよな。

ある日、そしてある日声をかけたんだーー

「君、サッカー好きなのかい?よかったら入っておいでよ。ずーっと練習みにきてただろ?
 いいって、やる気のあるヤツは大歓迎だからさ」

これが、俺たちとショウヤの出会いだった。

ショウヤはあまり何もいわないやつだったんだ。

ただボーっと俺たちの練習見ていてさ、なんかでもそれがはがゆそうなんだよな、

傍からみてたらおもしれーのなんのって、100面相!!

それを俺たちは、面白いって笑ってた。もちろんいい意味でだぜ。

そう、そして忘れもしないあの日・・






「あっショウヤ!!!危ない!!除けろーーーー!!」

一之瀬が放ったパスがフィールド外のショウヤの方へ向かって飛んでいく。



それがすごい勢いだったのな、もう完璧ショウの顔目掛けて飛んでいってさ。

ショウヤのやつはびっくりしたのか、動いてなくて、あぁ当たるーーって思った瞬間。

あいつ、体を後ろへ倒してなんと、見事なボレーで返したんだよ!!!!!!!

明後日の方向じゃないぜ、ちゃんと考えた場所に、俺の足元に投げてきたんだ。

あーーーもーーーびっくりしたぜーあん時はさ、あいつ見てるだけだったのに、実はめちゃくちゃ

うまいんじゃないの??ってみんなキョトーーンとした顔になってさ。

その後、ショウヤのやつ、なんか急に帰っちまって俺たちもひとつキョトーンって感じ。

ただ、その中で三杉さんだけが、なぜか笑ってた。

なんていうのかな、やったな!みたいな顔。

後で知ったけど、三杉さんはショウヤが上手なことを知ってたんだよな。


それから、ショウヤはうちのチームによく来るようになって、入れるときは俺たちと一緒にサッカーしてさ、

驚いたよ、三杉さん並。三杉さんと一緒だと三杉さんもやりやすそうでさ、

チーム内で2つに分けて試合したら、ほんとあいつ上手くて、俺たちは危機感を抱いたくらいだったんだよなー

そうそう、時々は試合にも実はでてたんだぜ、これってマジ内緒だけどさ!!!

メンバーのユニフォームかりてさ!あいつ小せぇから、大きいの!あははっ!服!!

でも、ショウヤが入った試合は必ず勝ったんだ。三杉さんもやりやすそうだったし。

小さい身体を生かして器用にボールコントロールしてさ、

俺たちもすっげーやりやすくて、天才って結構いるのかな?って思ったくらいすごいやつだったんだよなぁ



と、真田、本間、一ノ瀬が思い出を調子よく語っていると、発言したくてたまらなかったと思われる

一年ボーズが発言した。


「でも、先輩そのショウヤって奴・・いやショウヤ先輩は、なんでチームに入らなかったんですか?」


しんと静まりかえる部室内。

「え・・え?ここってつっこんじゃいけないトコロだったんですか??」

とあわてる一年坊主。



「・・そりゃお前ーーーショウヤは胸が・・おっと・・」

真田が口ごもる。

「お前ーー恥をしれ!!でも胸・・急だったもんな・・」

と一ノ瀬。

「胸がな・・・」と本間が言いかけたとき、


ガチャっ。

ドアの開く音。

「ちょっとちょっと!!!なにやってんのよ!アンタたちっ!!先輩がいないからってー
早速サボるつもり??みんなグラウンドに集合してるわよっ!早く来なさいよ!!」

「ま、マネージャー・・」3バカトリオの声が揃う。

「ところでショウヤの胸がどうしたのよ?」

空気が凍った。

ピーンと張り詰めた空気だったのを読めなかった一年ボーズは、マネージャーが普通にショウヤと胸という

言葉をだしたことに釣られて口走る。


「あ、あ!そのことなんですけどっ!ショウヤ先輩って三杉先輩と一緒の・・あのっ・・まさか一緒の病気で

・・・・胸の病気でやめられたんですかっ・・・もがーーーーーっ」


何をいってるのかわからない顔をするマネージャーを置いて、俺たちは出口に向かって突進する。

「さーあさぁさあさぁさぁ!!!室伏くん!!(一年ボーズの苗字だ)みんなを待たせたらだめだ!

 ああ、しょしょしょしょ・・勝(ショウ)負心はーーーえーー病・・・気的にーーとりつかれるものだよ

なっ!変な勝負心を持つことはやめなきゃなっ!!はっはっは!!さーーーいこう!!」

と、室伏の頭を抱きかかえ、小突きながら部室の外にでようとする俺たちにマネージャーの

声が響いた。

「ちょっ・・あんたたちっ・・・ショウヤの胸って・・・何!!!」

追いかけてくるマネージャーをちら見しながら、一目散に俺たちは走った。


マネージャーの胸が、あのころよりも弾んでいる。


それそれ、それが第二次成長を迎えたショウヤには隠し切れないものになってしまったんだよなー

走りながら、俺たちは顔を互いの顔を合わせて、なんとなく赤面してしまったのだった。


そして、室伏には、第二次成長を迎えた女子と体育するのは純情な少年にはやっぱり恥ずかしいぜっていってやろうと思ったのだった。



マネージャーと三杉さんには・・

死んでも言えないけれど・・・。

          エピソード1終わり  2へ続く  




                                                                                                             

                                                                                                                               

inserted by FC2 system