ジャパネスクRPG 小話4
                          文:りる様





今日は夏至の日。

瑠璃の生まれ育った村では、花や木で飾り付けられた柱を立てて、焚き火を焚いてお祝いすんだけど。

ここは魔界だし、モンスターたちにそんな風習は無い。

それどころかお日様の力が一番強くなる夏至の日は忌み嫌われているほどだった。


懐かしいな・・・


そんな事を思いながら、裏庭を囲む高い高い壁の向こうに思いを馳せる。

鷹男と結婚するって決めはしたけど、

そういった人間界での楽しい事全てから遠ざかってしまうのは寂しい。

一人でもお祝いしようかなと思うけど、それはそれでもっと寂しいように思えて、瑠璃は一人溜息を吐いた。


「瑠璃?今、時間はありますか?」


ひょっこりと顔を出した鷹男が、一人佇む瑠璃に声を掛けてくれる。

瑠璃が暇で飽き飽きとしているのは分かっているから、鷹男はこうして日に何度も様子を見に来てくれるようになった。


「ん?時間ならいっぱいあるよー?」


苦笑しながら振り返ると、鷹男は真っ赤な目を少し細めて。



「じゃあ、これを持っていてください?」


そう言って、何やら重いバスケットを瑠璃の手に手渡した。

なぁに?これ?って聞く前に、瑠璃の体がお姫様抱っこされる。

そのまま鷹男は真っ黒なビロードの蝙蝠羽をバサッて広げた。



何?!何?!何~~?!


「ちょ、ちょっと!」


「口を閉じてなさい。舌を噛みますよ」


言うが早いが、鷹男はあっという間に高い城壁を飛び越えて。

夕闇迫る空へと舞い上がった。

まだ地平線に残るオレンジ色の光。そこから紺色へ続く空のグラデーション。

綺麗だなぁなんて見ながら、鷹男の首にしがみ付く。

少し冷たくなって来た風が瑠璃の耳元で唸っていた。


鷹男が連れて来てくれたのは、国境にも近い湖だった。

魔界とはいっても、もう少し行けば人間界になっちゃう湖の森は、魔王の城とは違って、まだ清涼な空気が残ってる。

毒人参やイヌナスビ、可愛い割には毒草なスズランや水仙達に混じって、

セージやローズマリー、フェンネルなんかもあって、初夏の空気の中によい香りを漂わせていた。


鷹男は一体・・・?


不思議に思っていると、大きな柳の木の下に下ろされる。

柳の木の葉っぱはまだ若くて、とても柔らかそうだった。


「二人で夏至の夜をお祝いしましょう?」


そう言って鷹男がにっこりと笑う。

もしかして、鷹男は瑠璃が寂しがってたのを分かってくれたの・・・?


鷹男がバスケットの中から敷物を取り出し、その上にささやかな食べ物と飲み物を広げてくれる。

嬉しくなって瑠璃も笑いながら一緒に手伝った。


辺りにあった枯れ草や枯れ木を集めて、小さな焚き火を作る。

鷹男が小さく呪文を唱えると、焚き火はパチパチと小気味よい音を立てて、火の粉を夜空へと舞い上がらせていた。

瑠璃がハーブの花束を作ると、鷹男は嫌そうに顔を歪める。


あ。鷹男ってば魔王様なんだっけ。


闇の力が強いモンスターは、ハーブとかの聖なる力を宿す植物を嫌う。

少し惜しい気もしたけど、鷹男が嫌がるのなら・・・って、瑠璃は焚き火の中にハーブの花束を投げ込んだ。

乾杯をして、ご飯を食べて。

柱も音楽も無いけど、

鷹男と二人きりで夏至の夜をお祝いする。

けど夏至の日とはいっても夜ともなれば少し肌寒い。

瑠璃が僅かに身を震わせると、鷹男はビロードの蝙蝠羽で瑠璃の事を包み込んでくれた。


あったかぁい・・・・


鷹男の蝙蝠羽って暖かかったんだ?なんて変な事を考える。

お酒の勢いも相まって、うとうとと眠気が襲った。


「・・・眠っていいですよ。夜明け前には城へと連れて帰って差し上げますから」


鷹男の言葉に甘えて、そっと目を閉じる。こんな夏至の日のお祝いも悪くない。

瑠璃の頭の下には鷹男の腕枕。そしてその下には・・・セントジョーンズ・ワート。


瑠璃の夢枕に立ったのは、悪戯気に真っ赤な目を細める、魔王様な鷹男の姿だった。



終わり




りる様から追加の小話を頂戴いたしました!!
わぁーーもう魔王鷹男めっちゃ好き!!!Σ(ノ∀`*)ペチン

りる様、本当にありがとうございます!!!嬉しーー!!!!

(o≧ω≦)○))`ω゜)!・;'.

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