翼君が引越しして一ヶ月たった。

今は隣でボールを蹴りながら歩く彼はいない。

好きだった。
初恋だったのに。

翼君・・また会えるよね?
あたしは、とても寂しかった。

そんななんともいえない寂しさを感じていたら、なんと、あたしも引っ越すことになった。



・・・・武蔵野

どんな所だろうか?
でも新しい友達がまた出来るに違いない。
翼君みたいな子はいるかしら?
不安もあるが新しい土地に期待を膨らませてあたしは武蔵野へいくことになった。




******


「キャーーー淳様ーー」

「三杉くーーん!!」

学校の帰り道、黄色い歓声にびっくりして声の聞こえるほうを見た。

(あ・・グラウンド)

どうやら、グラウンドにいてる三杉とかいう人のファンらしい
翼くんとよくみたグラウンド、あたしも遊んだグラウンド。
思わず駆け寄っていた。

フェンス越しに中をみる。
どうやら、地元のサッカーチームの練習風景のようだった。
でも、どうみても選手は小学生。
黄色い声援を送っている女の子の集団もよくみたら
同じ学校の女子のようだった。

小学生なのに、こんなに応援がつくの??

不思議な気持ちだった。てっきり有名人でもきているかと思ったからだ。
女の子たちの目線を追う。



目線の先には1人練習している男の子。
他のメンバーはメンバー同士で練習試合をしているのに、
彼だけぽつんと離れた所でゲームに参加せずやっているようだった。

なーんだ・・・。

ここからじゃみえないけど、ただの女子好みの男の子なんだろう。
あたしは違和感を感じながら踵をかえした。

それが、あたし 青葉弥生と三杉淳との出会いだった。


******

それから幾度となく、あたしは帰り道にとおるグラウンドへ来ていた。
サッカーをしている男の子の中に、翼君をさがして。

サッカー好きな翼君に付き合っていたお陰で
サッカーのことは、なんでもわかる。

自慢じゃないが、普通の男子よりは、サッカーは上手だと自分でも思うくらいだ。
内容がわかるぶんだけ、フェンス越しにみるサッカーは
やっぱり見ていて楽しく、心が騒いだ。

勿論、黄色い声を上げてる女子からちょっと離れた所でみていたのだ。
彼女たちは、その目当ての三杉くんがでてこなければ、そっぽを向いてしまうようでサッカー自体には興味はなさそうだった。

・・・バッカじゃないの??

内心思いつつ、もしかして自分もその中の1人に含まれているのじゃないかと
思うと、なんとなく長居はできなかった。

何度も足を運ぶと、その三杉くんとやらは、参加している人していない日があることがわかった。
黄色い声がないからだ。

彼がサッカーしてるとこなんてみたことないぞ?

黄色い声の女子にうんざりしながら 今日もまた1時間ほどフェンス越しにサッカーを見て
帰った。




クラスでは友達もでき、それなりに楽しい毎日をすごしていた。
だけど、趣味は外でボール遊びーーーというわけには行かず、
やっぱり翼君のいない毎日は辛かった。


翼君にあいたいなぁ・・・。
それが本当に好きというきもとなのかわからないくらい幼いあたしはただただ
漠然と翼君に会いたいと思うのだった。






外をみると今日は雨。
傘をさしてグラウンドの前に立ってみた。
やっぱりお休みか。
後ろを振り向いて帰ろうとすると、、真後ろに立っている男の子が要ることに気がついた。


ペコっとアタマをさげて、横をすりむけようとすると、上から声がふってきた。

「君さ。ずーっとここで見てた子でしょう?」
「え?あ、まぁ・・・あその・・・ええ・・」

「ファンクラブのこたちとは、違うよね・いつも離れてみていたから」

「よく見てるのね」

「だって、真剣にサッカーみてたよね、百面相みたいだったよ、
サッカーしたいのかなって思ってたんだ」

「百面相!?」

「あははは、そんな感じ、プレーヤーのプレイにその都度その都度表情がころころ変わってさ。面白いな・・っと失言でした。」


よくしゃべる人だなぁと思った。


「・・・サッカーがとても上手な友達がいたの。
だから好きなんだサッカー」
「へぇ、うちのチームの選手よりも上手かい?」

「・・・申し訳ないけど、比べ物にはならないくらいよ」

そういうと、彼はちょっと面白そうな表情をした。

「うちのチームは武蔵野FCといって、テストを受けて選ばれた人だけが所属できるチームなんだよ、
それでもその子のほうが上手に見えるわけ?」

「上手にみえるんじゃなくて、翼君は誰よりも上手いわ、あなたがこの武蔵野のチームと同じくらいのレベルなら、話になんてならないわよ」

「・・・やってみたいな」

「?」

「翼君?彼に会いたい。全国大会にはでてくるのかな?わかる?」

「今翼君がどこにいてるのかは、知らないのよ・・・。
ってちょっとまって、全国大会にでるつもりなの?」

「出るよ。武蔵野は出る。サッカーはチームプレイだから、絶対でられるよ。自慢じゃないけど、うちのチームのチームワークはすごいんだよ。君その・・君のいう翼君と勝負したいよ。そんなに上手い選手ならきっとでてくる、全国大会に。そんなスゴイ選手ならきっと会えるに違いないよね」

「・・・そうよ・・翼君はまとめるのも上手だったもの・・・」

彼と話をしながら、あたしの頭のなかで言葉がぐるぐると回る。



つばさくんに・・・会える・・・。
翼君に・・・会える・・・。

翼君に会える!?

「ねぇ!!ってことは翼君に会えるの!?絶対武蔵野は全国大会にでるの!?ここにいたら翼くんに会えるの!?」

「え?とりあえず全国目指しているつもりだからね」

・・翼君に会える・・。
ここにいたら。このサッカー部について行ったらいつか・・・。


「ね!ねぇ!ここ、マネージャー要らない??ってかもういてるの??
 なんでもするわ!選手でもいいわよ!あたしをここに入れてよ!」

「せ、選手は無理だよ・・マネージャーは募集中、きついらしくて続かないんだ、監督に言ってみたらどうかな?ボクからも言ってみるけど・・・。ところで、キミの名前は?」  

「あっ、青葉弥生です!よろしくお願いします!!!」
頭なんぞを下げてみた。

「ボクは三杉淳、明日またおいでよ、聞いてみるといい」

綺麗な顔の少年、三杉淳は、そういって、それじゃ・・・と雨の中を駆け抜けていった。
あたしの心に今はまだわからない、何かを残して・・。


数日後、あたしは武蔵野FCのマネージャーになった。
そしてそれは、三杉淳との長い付き合いの始まりだった。




****

マネージャーとは想像を絶する忙しさだった。
今までなんでマネージャーが続かなかったのかわかるような気がする。
しかし、それは全く違う意味で続かなかったということが
ある日突然わかってしまった。

学校へ来て、机をみると・・

「いい気になるな」「死ね」とマジックでかかれている。

下駄箱の靴がゴミ箱に捨てられ、教科書には落書き。
かばんを隠され、女子のシカト。


そういうことか・・・。


要するに、三杉淳ファンクラブの女子がマネージャーの存在を
許さなかったのだろう。

三杉淳との長い付き合いと共に、そのファンクラブの女子との
根競べも始まったといっていい。



結局は、誰かがファンクラブのコに何をいったのか、
ファンクラブのコからは思いっきり嫌われているのはわかったけど、
シカト以外のいじめは無くなった。

クラスのすべての女子がファンクラブのコじゃない。
友達が居ないわけではなかったから、辛くはなかった。




********



「ピーーーー」

ホイッスルの音。練習試合の始まり。

いつも不思議だったけれど、彼はなぜか、大体ベンチに座っていた。
つまり、三杉淳ファンクラブがあるにもかかわらず、彼は
試合にでることがないかったのだ。

今日も彼は動かないのだろうか?
どうしていつも補欠なんだろう。
こんなんでは翼君とは比べようがないような気がした。

しかし、今日の試合であたしは

はじめて三杉淳を見て、すごいと思うことになる。


「タイム!」
監督が叫んだ。
そうすると、ざわざわと外野の女の子が騒ぎだしはじめた。
「淳様がでるわよ」
「三杉くーん」
「キャーー」

あたしもいよいよ彼が入るのだと緊張した。


五分五分の勝負だった前半、後半終わり15分のところで、
三杉淳は選手交代として入った。

試合が再開され、彼にボールがパスされる。

ボールが足に磁石のように吸い付けられるように流れ、
彼が走る。

あたしは、思わず立ち上がった。
上手い。
上手い、上手い、上手い!!!
すごいすごいすごい!!

美しい・・という言葉ってこういう場合に使うのじゃないだろうか。
彼は天才プレーヤーだった。
流れるような動き、テクニック。


つ・・翼君・・。


いや・・翼君じゃない。
翼くんとは違うけれど、翼君くらい、いや以上に彼は
完璧だった。

黄色い声援はますます大きくなり、
たった15分の間に4点も彼はゴールを決めた。

あっというまの、奇跡。
あっという間の出来事。

なんなの?この人。
なんで?なんで今まででなかったの??
ええ?わからない?わからないわ。
最初からでていれば、もっともっとすごい展開になっていたはず。


試合は完全武蔵野の圧勝でおわった。


「監督・・」

「青葉すごいだろう、ヤツは」

「すごいってもんじゃないですよね・・・。あたしびっくりしてしまって・・驚きました・・・」



そのとき、あたしの頭に翼君は全く浮かばなかった。
彼に魅入られた。
まさに、彼のプレーの虜になったのだ。


目の前で、彼を囲むチームプレイヤーたち。
楽しそうに微笑む彼。
彼の目があたしを見た。

にっこりと微笑む彼に、釘付けになる。

息をすって深呼吸し、ドキドキを抑える。
そして微笑み返した。


翼くんとの勝負がみたい。
そして何よりも、彼が空に舞うようなサッカーをもっとみたいと
あたしも、そう思った。

その願いと祈りは、いつしかあたしの心に恋という形で
あらわされることになる。

そう、思っても無いくらい近いうちに。

あたしは・・彼しか見えなくなった。


 



・・・・ヤベ!!Σ(゚Д゚;≡≡≡≡≡ヾ(;゚д゚)/ニゲロ~!!


ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=ε=┏(*-u-) ┛うがーーーーっ!!

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青葉弥生ものがたり

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